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等級制度を考える前に、まずは等級というものについてご案内いたします。
等級とは、簡単にいえば、何かの基準でランク付け、格付け、ランキングしたものとなります。
人事制度の骨格、骨組みと言える重要な仕組みの1つです。
この等級やランキングという考え方自体は、人事制度だけではなく世の中のたくさんの世界で利用されています。
一番イメージしやすいのはスポーツの世界です。例えば、相撲の番付表を考えてみましょう。
相撲には、横綱を頂点として大関や関脇、小結といったランクがあります。当然、格付けが高い横綱を頂点としてピラミッド構造の組織体系になっており、組織からの給金(早い話、サラリーマンでいうところのお給料)も横綱が最も高くなっています。
また、チームスポーツであるサッカーなどでも、国ごとに世界ランキングが格付けされていたり、個人競技でも世界ランキングや国内ランキングは多くの競技で公表されています。
昨今、格差社会が叫ばれており、「格差」と聞くと、何か嫌なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、やはり組織においてこのピラミッドの階層構造を作り、序列を明確にすることは意味があります。
それではこの階層・等級を作る意義を次にみてきましょう。
等級制度により、階層構造を作る必要性や意義についてみていきたいと思います。
等級とは、人を何らかの基準で序列化、ランキング付けするものです。
この序列によって、組織は、賃金を始めとした待遇にも格差を設けることになります。
この格差の基準を会社ごとに決めることで、何を基準に社員の処遇を決めているかが明確になります。
そして、明確になった基準をもとに人材マネジメントの運用を行うことができれば、そのマネジメントには一貫性が通ることになります。
極端な例をいえば、等級がなく、経営者の好き嫌いだけで処遇が決まる会社よりも、何らかの基準に基づいた等級制度により処遇が決まる会社の方が公平ではないでしょうか?
このように、等級は組織におけるマネジメントに一貫性と公平性を保つために、非常な重要な役目を果たす仕組みとなります。
弊社の人事評価制度コンサルティングでも、基本方針を策定後、この社内の等級をどう区分するかをコンサルティングの初期に検討し決定していきます。
もうすこし具体的に考えると、等級制度を明確にし、社員に打ち出すことは、会社・社員双方に以下のような大きなメリットが生まれます。
(会社にとってのメリット)
(社員にとってのメリット)
等級制度の意義について理解が深まったと思いますので、次は等級を区分する具体的な要素を見ていきます。
企業の等級の要素は以下のようなものが考えられます。
【年齢、勤続年数(年功序列)】
一番わかりやすいのが実はこの年齢です。年齢とランク付けは日本型企業の特徴でもある要素であり、「年功序列」という有名な言葉もあります。
この年功序列型の仕組みでは、当然ながら年齢が高い人、勤続年数が長い人のランクが上位となり、待遇も上がっていく仕組みとなります。基本的に下がるという考えはありません。
能力を評価しなくてもよいというわかりやすさもあり、公務員や老舗の企業などの給与の仕組みにはまだまだ根強く残っています。
【職務遂行能力(職能資格制度)】
年功型賃金に問題を感じた1970年代の日本企業の多くで導入された仕組みです。
年齢や勤続年数ではなく、職務を遂行する能力を頑張ってあげれば評価されて等級(格付け)が昇格して給与もあがる、というシステムになります。
等級があがったとしても、役職に就けるかどうかはポストの関係もあり、等級と役職は切り離して考えられます。
【職務内容(職務等級制度)】
その人が従事する職務の内容によって、等級・格付けが決まる方式です。
最近耳にするようになったジョブ型雇用とはこの職務内容による等級制度であり、その職務の内容は職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に明記されることになります。
組織内における待遇も、職務記述書に沿って運用が行われ、働く人の職務の内容も職務記述書の通りとなります。
やっている仕事の内容や難易度によって、処遇が決まるという一見、シンプルかつ合理性の高い仕組みですが、私は日本では実現は難しいという考えです。
【役割(役割等級制度)】
合理性があるが、実態としては導入・運用ができないジョブ型雇用の職務等級制度の問題を解決するために、考えられた方式です。
組織内における役割で大まかにグルーピングを行い、箱を作りその箱の区分を等級にするイメージです。
例えば、入社間もないプレーヤーの階層をアシスタント層、そこから経験を積み現場での指導、実務をこなす中間層をリーダー層、そこからマネジメント業務を行うマネージャー層といった「役割」で区分します。
また、縦のラインでわけるとともに、横のラインでは、営業系や事務系といった役割で分けることも可能です。
柔軟な設計ができることや、同一労働同一賃金の問題もあり、導入する企業も増えてきていますが、評価基準の作り方など導入した企業においても試行錯誤の段階といえます。
弊社でもこの役割等級制度での等級制度をコンサルティングしており、弊社の人事制度もこの役割等級制度となっています。
一般的に会社・組織内での職位、ランクを表すものとしては、「等級」と「役職」があります。
能力や役割、職務、成果責任などのレベル・大きさを表したものが「等級」、部長や課長、係長、リーダーといった組織運営上の役割名・ポストを表したものが「役職」です。
等級制度を検討するうえで、等級と役職をどう関係づけるのかは会社によります。シンプルに等級と役職を一致させるケースもあれば、同じ役職に複数の等級を認めるケースもあります。
どちらの制度が良いというのは特になく、両者ともにメリット・デメリットがあります。
等級と役職を一致させる仕組みは、非常にシンプルでわかりやすいというメリットがある一方、柔軟性は欠けます。
一方、等級と役職が紐つかない仕組みは柔軟性というメリットの代わりに、わかりにくさと仕組みが複雑になるというデメリットを併せ持つことになります。
また、等級の区分の数を何段階にするか?という点も検討課題となります。
等級の数が多ければ、それだけ昇格の機会が多くなりモチベーションアップにもつながるメリットが生まれます。一方で、昇格審査の頻度が多くなることでの管理工数の増大や等級ごとの待遇を含めた差が薄まるという難しさもあります。
弊社での事例をみると、20人以下の企業では4~5等級、100名以下の企業で6~7等級、数百名規模の企業で7~9等級程度が標準的です。
重要なのは、それぞれの「等級」の違いを説明できるか?、等級を分ける意義・必要があるか?を会社・組織ごとに検討することにあります。
弊社がサポートした事例を紹介します。ある企業では、複線型の人事制度を構築したいという思いと、シンプルな制度にしたいという思いがありました。
そこで、全等級を9つに区分し、初級等級となる1~3等級を一般職、中間等級となる4~6等級を指導職、上位等級となる7~9等級を管理職と区分しました。
この区分の後、一般職となる1~3等級では転勤などの人事異動の範囲も制限をつけ、指導職層へ昇格した者が人事異動の範囲も広がる仕組みとしました。
一般職から指導職への昇格は本人の希望をもとに実施し、希望がない場合は無理に昇格をさせないかわりに待遇にも反映するという、いわば限定正社員の意味合いを1~3等級にもたせることとしました。
4等級以上からは限定が解除される代わりに、待遇にも反映することで労使双方の納得感を高める工夫をしました。
等級区分を検討するとともに、人事評価の観点では、コンピテンシーを合わせて検討することをおすすめします。
そのためにも、やはり組織での役割と等級をリンクさせて検討した方が、コンピテンシーの検討がしやすいといえます。
等級制度、コンピテンシーにご興味がある企業様はぜひ一度弊社にご相談下さい。
それでは、等級制度の導入ステップをみていきましょう。等級制度導入の一般的な手順は以下のようなステップとなります。
1. 現状分析と課題の明確化
まず、自社の現行人事制度や組織構造を詳細に分析し、現状の課題や改善点を洗い出します。これにより、等級制度導入の目的や必要性を明確にします。
2. 等級制度の基本方針策定
経営戦略や組織目標に基づき、等級制度の基本方針を設定します。例えば、「能力主義を重視する」「役割に応じた報酬を設定する」など、組織の価値観や目指す方向性を明確にします。
3. 等級フレームワークの設計
従業員を分類・区分する等級の段階を設定します。一般的には、一般職から管理職までの複数の等級を設け、それぞれの等級に求められる役割や責任範囲を定義します。等級の数や内容は、自社の規模や業種に応じて適切に設定することが重要です。
4. 等級ごとの要件定義
各等級に求められる能力、スキル、経験、責任範囲などを具体的に定義します。これにより、従業員が自身のキャリアパスを明確に描けるようになります。
5. 給与体系の整備
各等級に応じた給与や賞与などの給与体系を設定します。市場の賃金水準や自社の財務状況を考慮し、競争力のある報酬体系を構築します。
5のステップまでできたら、一定期間、等級制度を試行的に運用し、その中で得られたフィードバックを収集する試験運用を行います。
試行運用で得られたフィードバックを基に、制度の修正・改善を行います。その後、正式に等級制度を導入し、全社的に運用を開始します。
等級制度の意義をみたところで、逆の制度についても考えてみます。
組織内の等級や階層を決めないマネジメント方法がフラットな組織であり、最近新しい言葉として出てきた「ティール組織」となります。
ティール組織とは、組織内の階層、ランク、格付けなどの一切のヒエラルキーを排した、フラットな組織体制のことを言います。
階層構造、等級制度のある仕組みの組織では、例えば経営者や取締役を始めとしたトップからの意思決定がトップダウンで行われます。
一方、ティール組織においては、組織上の上下関係がなくフラットな組織となっていますので、個々人またはチーム毎に意思決定の権限や権利があり、個人ごとまたはそのチームごとが意思決定を即時に行って組織運営を行うスタイルとなります。
組織上の上位者(管理職)が下位の部下を「管理する」という概念がなく、組織全体が自律しています。
一見するとすごい組織のように聞こえますが、個人的にこの方式が上手くいくのは、組織内のメンバー一人一人が高度に成熟し、また能力的にも堅いレベルにある必要がありますので、実現するのはかなり難しいと感じます。
イメージするとすれば、同じ会社・組織ではなく、ある目的を達成するために、外部業者、取引先、個人事業者を含めてチームを組む場合は、こういったティール組織になれれば成果を生みやすいのかもしれません。
最近、日本でもジョブ型雇用が叫ばれていますが、実は日本の労働基準法と本来のジョブ型雇用は相性が悪く、現状では上手く導入することができないというのが弊社の考えです。
では、なぜジョブ型雇用になれないか?次の2つがネックになります。
〇解雇規制が厳しすぎること
〇賃金の硬直性がありすぎること(簡単に賃金下げられないこと)
ジョブ型雇用では、ジョブ(仕事)の内容ごとに仕事の要件と報酬を定義します。
問題は、ジョブが変わるときです。
本来のジョブ型雇用というのは、そのジョブ(仕事)がなくなれば解雇して他の会社へ行ってください、というのがOKとなります。
しかし、日本の今の労働法制では現実としては解雇をそんなに簡単にできません。
例えば、事業内容や事業方針の転換で会社に必要な職種や業務が、採用時想定していたジョブからがらりと変わったとします。
欧米の場合は、「会社の方針が変わったので、従来の仕事はやらなくなりました。つきましては、他の会社へ行って下さい」と解雇となります。
もしくは、「新しい経営方針ではあなたの新しいジョブはこの内容になり、給料も変更になります。」と新しいジョブに応じた報酬に変更されます。
ところが日本の場合は、事業環境の変化や事業方針の変更があったとしても、そう簡単には解雇ができず、人事異動・配置転換で「雇用を守る」ことが求められます。
また、人事異動・配置転換し、その配転先のスキルや経験がゼロだったとしても、安易に賃金をそのジョブに応じた額に下げることもできません。
これは、全ての労働者に適用される「労働基準法」の思想自体がジョブ型雇用にはなっておらず、メンバーシップ型で待遇を保障するという思想に基づくものになっているためです。
そのため、労働基準法を変えなければジョブ型雇用を上手く導入・運用することは難しいだろう、というのが弊社の考えです。
ジョブ型雇用とは、雇用といっていますが、イメージとしては、全員が業務委託になると考えればしっくりきます。
外注業者に、ある業務(ジョブ)を定義して契約して報酬を支払います。
では、事業環境の変化でその業務が不要になって新しいジョブが必要になった場合、どうするでしょうか?
やらなくなったジョブの外注業者は契約を終了し、必要になったジョブの外注業者と契約することを考えるでしょう。
これが雇用の場でもできるかといえば、困難です。
こういった理由のため、巷で騒がれている、職務記述書(ジョブディスクリプション)を一生懸命作成しても、ジョブ型雇用を現在の法令、解釈のままでは実現するのは厳しいと言えます。
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